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東京地方裁判所 平成10年(ワ)28477号 判決

原告 行方憲一

右訴訟代理人弁護士 山本隆

被告 三浦博樹

右訴訟代理人弁護士 由岐和広

同 豊崎寿昌

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一五〇〇万円及びこれに対する平成八年八月三一日から平成九年二月二八日まで年三パーセントの、同年三月一日から支払済みまで年五パーセントの各割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告に対し、次のとおり金員を貸し付けた(以下、この金銭消費貸借契約を「本件消費貸借契約」という。)。

(一) 貸付年月日 平成八年八月三〇日

(二) 貸付金額 一五〇〇万円

(三) 弁済期 平成九年二月二八日

(四) 利息 年三パーセント

(五) 利息の支払期 平成九年二月二八日

2  よって、原告は、被告に対し、本件消費貸借契約に基づき、次の金員の支払を求める。

(一) 元金一五〇〇万円

(二) 右(一)に対する平成八年八月三一日から平成九年二月二八日まで約定の年三パーセントの割合による利息

(三) 右(一)に対する平成九年三月一日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金

二  請求原因に対する認否

請求原因1は、認める。

三  抗弁

1  被告は、平成八年八月三〇日、原告に対し、アートフォーラム株式会社(以下「アートフォーラム」という。)株式八〇株(評価額は、一株三〇万円、合計二四〇〇万円。以下「本件株式」という。)を本件消費貸借契約に基づく債務(以下「本件債務」という。)の担保として譲渡し、被告が弁済期に本件債務を弁済することができないときは、本件債務の弁済に代えて本件株式を譲渡することを約した。

2  原告は、平成九年二月二八日、本件債務の弁済に代えて本件株式を取得する旨述べ、被告は、これを承諾した。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2は、否認する。アートフォーラム株式は、その譲渡につき取締役会の承認を要する株式(以下「譲渡制限株式」という。)であるところ、被告から原告への本件株式の譲渡については、アートフォーラムの取締役会の承認はなく、また、株主名簿の名義書換えは行われていない。

理由

一  本件事実関係

請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、これに加えて、証拠(甲一ないし五、七ないし九の3、乙一、二、原告本人、被告本人、証人相馬英男)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実(以下「本件事実関係」という。)が認められる。

1(一)  アートフォーラムは、昭和六〇年五月一日設立された版画及び絵画の販売及びリース業等を目的とする株式会社であり、その概要は、額面株式一株の金額は五万円であり、発行済み株式の総数は一九〇〇株(平成八年一二月七日以降)であり、株式を譲渡するには取締役会の承認を要し、事業年度は三月一日から翌年二月末日までである等である。

(二)  原告は、アートフォーラムの設立当初から代表取締役であり、発行済み株式の総数一九〇〇株のうちの一四四〇株を所有する。

(三)  被告は、昭和六二年七月一日アートフォーラムに入社し、平成一〇年五月一五日退社した。その間、被告は、平成六年ころ、アートフォーラムの取締役に就任した。

2  被告は、平成二年ころ、原告の勧めを受けて、本件株式(アートフォーラム株式八〇株)を取得したが、本件株式の株券は、被告に引き渡されず、アートフォーラムの事務所の金庫に保管されていた。

3  被告は、平成六年三月ころ、アートフォーラムから住宅資金として一五〇〇万円の貸付を受けた。

4  アートフォーラムは、平成八年ころ、同社株式を店頭公開するため、監査法人の監査を受けたところ、個人に対する貸付を整理して、代表取締役である原告に対する貸付にまとめるように勧められ、被告に対する一五〇〇万円の前記貸付を原告が弁済し、原告がアートフォーラムに代わって被告に対し一五〇〇万円を貸し付けた旨の経理上の処理をすることにした。

原告は、アートフォーラムの当時の経理課長の相馬英男(以下「相馬」という。)に対し、右のような経理上の処理を行うための金員借用証書を用意するように指示した。右指示を受けた相馬は、単なる金員借用証書ではなく、貸金の担保を取るとともに、貸金の返済がない場合には担保を代物弁済する趣旨の代物弁済金員借用証書(甲一。以下「本件証書」という。)を用意した。本件証書には、ワープロで四項の規定が予め記載され、第一項は「甲 は、平成 年 月 日乙 に対し(以下、甲、乙と称す)金員壱阡五百萬円也を貸し付けし、これを受領した。」と、第二項は「乙は、平成九年二月二八日迄に、元金と年利三%の利息を合算し甲に支払うものとする。」と、第三項は「尚、甲に貸付した金員に対し、乙は甲に対して乙の所有するアートフォーラム株式会社の株式八〇株を差し入れるものとする。」と、第四項は「期日に乙が甲に返済できぬ場合は乙が所有し、甲に担保として供せる全株式を甲に代物弁済とし、名義を甲に速やかに変更するものとし乙はこれを承諾した。」と規定されていた。

平成八年八月三〇日、原告と被告は、同日の日付を記入した本件証書にそれぞれ住所を記載し、署名押印した。

5  アートフォーラムは、平成八年一二月、一株の発行価額三〇万円で一〇〇株を発行して、ジャフコ株式会社(当時の商号は日本合同ファイナンス株式会社)及びその系列会社から三〇〇〇万円の出資を受けた。

6  被告は、本件債務の弁済期が経過した後の平成九年三月及び同年四月、原告に対し、本件株式で代物弁済するので、名義を書き換えてほしいことを依頼し、原告はこれを了解した。

本件株式の被告から原告への譲渡については、アートフォーラムの取締役会の承認はなく、また、株主名簿の名義書換えは行われていない。

7  アートフォーラムの確定申告書添付の同族会社の判定に関する明細書中、平成八年三月一日から平成九年二月二八日の事業年度及び同年三月一日から平成一〇年二月二八日の事業年度においてそれぞれ被告は八〇株の所有株主である旨の記載があるが、同年三月一日から平成一一年二月二八日の事業年度においては右の記載はない(なお、甲一〇において、廣渡嘉秀公認会計士は、右事業年度においても被告はアートフォーラムの株主であったが、右明細書中から意図的にその記載を省略する取扱いをしたと陳述するが、右陳述は、それまでの事業年度についての右明細書の記載と整合せず、たやすく信用することができない。)。

二  抗弁について

本件事実関係によれば、原告は、アートフォーラムの発行済み株式の総数一九〇〇株のうち一四四〇株を所有する大株主(持株割合七五パーセント超)であり、かつ、アートフォーラムの代表取締役であること、被告は、平成八年八月三〇日、原告に対し、本件株式を本件債務の担保として譲渡し、被告が弁済期である平成九年二月二八日に本件債務を弁済することができないときは、その弁済に代えて本件株式を譲渡することを約したこと、被告は、右弁済期に本件債務を弁済することができなかったこと、被告は、右弁済期が経過した後の同年三月及び同年四月、原告に対し、本件株式で代物弁済するので、名義を書き換えてほしいことを依頼し、原告はこれを了解したこと、被告は、本件株式の株券の引渡しを受けたことはなく、右株券はアートフォーラムの事務所の金庫に保管されていることが認められる。

右認定事実によれば、被告は、本件債務の弁済期である平成九年二月二八日、本件債務を弁済することができなかったので、原告に対し、本件債務の弁済に代えて本件株式を譲渡し、これにより、本件債務を弁済したこと、本件株式の株券の交付は、被告から株券を保管するアートフォーラムの代表取締役である原告に対する指図による占有移転の方法によったことが認められる。以上によれば、被告の抗弁は理由がある。

原告は、被告から原告への本件株式の譲渡については、本件株式は譲渡制限株式であるにもかかわらず、アートフォーラムの取締役会の承認はなく、また、株主名簿の名義書換えは行われていないと主張するが、取締役会の承認を欠く譲渡制限株式の譲渡も、その当事者間では有効であると解され、また、株主名簿の名義書換えは、株主が会社に対して権利を行使するための要件であり(商法二〇六条一項)、株式の譲渡の効力の発生要件とは解されないから、これらの手続が行われていないからといって、被告から原告への本件株式の譲渡の効力に影響はない上、アートフォーラムの取締役会に対する承認の請求及びアートフォーラムに対する名義書換えの請求は、いずれも本件株式の取得者である原告が行うべきものであるから、原告の右主張は採用することができない(ちなみに、原告は、アートフォーラムの持株割合七五パーセント超の大株主で代表取締役であるから、被告から原告への本件株式の譲渡について取締役会の承認を得ること及び名義書換えをすることに支障はないということができる。)。なお、本件株式が本件債務に比して過剰担保であるにもかかわらず、その清算が行われていないこと、被告が有価証券譲渡税の申告をしていないこと等の事実は、本件株式による代物弁済の事実があったとの前記認定を左右しないし、また、右代物弁済の効力に影馨しない。

三  結論

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉戒修一)

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